レザリア公国を出て数日。
カシリア王国辺境の街道を行く、シエラ達を乗せた馬車は道の凹凸のままに、酷く揺れていた。
公国の役人の相棒である大きな鳥に乗せられ、たくさんの海獣が住む海を越えて、先ほどカシリア王国に入った一行は一路、馬車で王国の首都、ラクシアを目指していた。
王国に入った時、港町に用意されていた馬車は一台しかなかったので、普通では考えられないことだが、シエラはクレアと同じ馬車で移動していた。もともと乗るのはクレアとお付きの侍女だけが乗る予定だった為、用意されていたのはそこまで大きな馬車でもなく、今はそこに三人+シエラの荷物も乗っているので、シエラはとても窮屈な思いをしていた。
こんなことなら、やっぱり後ろにいる騎士か誰かの馬に乗せてもらえばよかった……、とシエラはそう思った。
最初、シエラは騎士の一人の馬に一緒に乗せてもらうはずだったのだが、騎士が余り良い顔をしなかったのを、敏感に察知したクレアがそれを拒否したため、シエラは今、クレアと侍女と共に馬車に揺られているのだった。
揺れのせいで、シエラは身体中が痛かったが、文句を言える状況でもないので、黙って馬車に揺られていた。
車内の窓から見える風景はシエラにとって、目新しいものばかりで、シエラは俄然興奮を覚えていたが、今は慣れない長旅のせいもあって、疲れていたため窓辺に肩肘をついてぼーっと外を眺めていた。







揺れる車内の中。シエラは自らの体の反動で目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。ずっと同じ体勢でいたためか、体が酷く痛み、そのせいで体が反射的に動いたらしかった。
“だいじょうぶ?”と聞いたクレアに“大丈夫”と言い、シエラが窓の外を見ると、日はもうすでに傾いていて、空はよく見慣れたオレンジ色になっていた。
あれから三日。
ずっと同じような風景の中を走っていた馬車は、着々と王城に近づいており、見える風景も退屈な田舎の風景から、華やかな都会の風景へと変わってきていた。
窓から見える人々はどれも楽しそうで、賑やかな喧騒に包まれていた。
いたって平和そうなその景色を見て、シエラは少しだけ胸が傷んだが、顔色は変えないように努めた。
余計なことを考えない様、無意識に昼寝をすることも多くなったシエラは、どうしても考えてしまう故郷のことを思っていた。
そしてしばらく、シエラが考え込んで押し黙っていると、不意にクレアが窓の外を見て、目を輝かせた。

「あ!城が見えてきたわよ!!」

シエラの服の裾を軽く引っ張りながら、クレアが窓を指を差す。
指し示した方を見ると、大きな石造りの建造物がシエラにも見てとれた。
そのあまりの大きさに、シエラが“うわぁ……”と声を漏らすと、何故かクレアは誇らしげに笑って見せた。
カシリア国の首都、ラクシアの真ん中にある城……「モントヘル城」は、約500年前に建てられ、当時の国の女王「ベルモント」が「ロベリオ・ヘルム」という元騎士に送った城だ。なんでも、女王がその騎士の事を大層気に入り、あの手この手で口説き落としたのだという。その末、周りの反対を押しきって結婚したのだそうだ。そしてその後、ベル“モント”からロベリオ・“ヘルム”へ、という意味でこの名が付けられ、その城に二人仲良く暮らしたのだとか。
その話を聞いて、シエラは正直ドン引きしたが、さすがにそれをあからさまに表現するのは憚られたので、咳払いをして表情を誤魔化した。

そうこうクレアとシエラが会話をしている内に、城門はもう目の前。
先頭を走っていた騎士が、門番の騎士と少し話し、こちらをチラッと確認して、門を開いた。
シエラはなんとも言えない緊張感を感じながら、馬車の中で城門をくぐった。
城の馬車を留めておく場所まで移動する途中、一人の騎士が城へ駆けていて、シエラは“どこの国でも大人は大変なんだなぁ”と考えていた。
馬車を停車して、御者が馬を馬小屋に連れて行くのを横目で見届けながら、シエラたちは城の入り口に向かい、いよいよ城の中へと足を踏み入れた。

その瞬間、シエラはあまりの建物の大きさに、思わず息をのんだ。
外から見ても確かにその大きさは凄いものであったが、内から見ると改めてその大きさが感じられた。 天井付近まで吹き抜けになっているエントランスホールは、それだけでシエラを圧倒した。なんといっても凄いのはそのエントランスホール中央にある、これまた大きな階段だった。
大きな石造りのような室内は、閑静でシンプルになっていて、豪華というより歴史を感じさせるイメージだった。シエラは、不思議と故郷のとても神聖な遺跡に入ったような、そんな感覚を覚えていた。
シエラが、階段や壁の美しい装飾に見とれていると……上の階から、所々変わった形の、動きやすそうなドレスを纏った女性が降りてきた。
クレアは一瞬驚いた顔をして、頭を下げた後、声を発しようと口を開いたが、結局何も発さなかった。
シエラが自分も周りに倣った方が悩んでいると、女の人はクレアを横目で見た後、シエラを一瞥して、大きな声でこう言った。

「その娘を牢に入れなさい」





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